朝日連峰 朝日俣沢-岩魚止沢の滝【山形県 西村山郡 朝日町 立木】
SUMMARY
じんわりと深い、朝日の沢体験。
それは数週間しても消えることはなく、 忘れえぬ体験を僕らに残してくれた。
滝の記録
訪問日 2020年9月19-20日
活動の形態:3級上沢登り(3名) / 車
装備:8mm×30m(2本), 泊装備, ミラーレス一眼(広角), 三脚, キャニオニア3, チェンスパ
感動度:かなり~限りなく
①プロローグ 沢タビの在庫
前日、沢タビの補充へ、カモシカスポーツへ向かう。
そうすると悲しい事実が迫ってきた。
今シーズンはMサイズはもうないとのこと。
9月になくなるなんてこんなことはなく、滝いろで紹介してきたことが原因か??
などと嬉しいような悲しいような気持ちになる。
今シーズンの品切れの原因として、「友人に紹介し過ぎたかもしれない」と、店員さんに打ち明けるも、
「またまた〜〜」といった感じで、特にねぎらいの言葉はなかった。
1年ぶりにキャニオニア3を選択する。
②天気の隙
この沢の風景のレポートは、僕らの目に焼き付いた。
そして天気はこの場所に隙を見せる。
王子で合流して、スーパーで鍋具材の調達。
早速夜が楽しみになってくる。
東北道を進んでいき、僕は那須高原から長井市のコンビニまで運転。
寝ている間に、林道が終わっていて、終点の駐車スペースに到達した。
朝は少し雨が降っていたが、じきに止むことは見えていた。
③豊かな自然
まずは登山道を進んでいく。
不安定な橋。

Kくんは久しぶりの山で足ができていない。
中村さんはネオプレンソックスを忘れて、靴ズレを起こして、その対応が生じる。

孫兵衛平

きのこ (マイタケ???)

カエル
結果、通常タイムよりも時間がかかり、2時間10分にて入渓地点に到達する。
大休憩中、ジオの探究に努める。
メノウ?っぽい石

あまりにも重くて持ち帰りは断念。
④河原状と高巻き

小ゴルジュ

しばらくはさしたる滝もなく、
渓流の距離を稼ぐような区間ではあるが、
パーティのペースは上がってこない。

しかしその分、ゆっくりと
自然観察を行うことができた。
檜沢を過ぎる。

ミカゲ沢が出会うところは、
いったんミカゲ沢の滝を登ってからの乗っ越し。

確実に登れる4mの滝だったので、僕が上でロープをフィックスして、登ってきてもらう。
ロープの回収中に、高巻きを先に進めてもらうが、大きく巻くように動いてしまっていた。
結果沢へ下降する際にロープを出し、回収中に、小さく巻いている後続パーティを視認。
高巻きというのは、まず必ず、小さく巻けないかを確認しなければならない。
沢トレで感覚を掴んでいくことが大切。
⑤思わぬ再会


小滝
その後はしばらく頑張って進んだが、上ノ大沢入り口にて、追いつかれる。(14:21)

ところがそのパーティというのが、昨年のSWにも飯豊の七滝沢でお会いした方が、いらっしゃったのである!
というのか、4名中3名が昨年と同じパーティだった。(下山後相模アルパインクラブの皆さんだと判明。)

進んでいく

5m滝
5m滝は以前と違い、登るための多くが欠けてしまったようで、左から巻き(14:40)。
⑥登る選択
歩む

次の滝は、先ほどのパーティが左から
ロープを出して巻いていたので、
左から滝の登攀に挑戦(15:06)。

支点を複数箇所から取っていくも、なぜか、2つ目の支点から折り返しで1つ目の支点に、戻るような流れになってしまい、
その時には位置的に窮屈で進まざるを得ず、
3つ目の支点を取って、大きく滝の流芯に出る。
ガバが良くて、これは一気に行ける!と思ったら、
流心にてロープが全然動かず、背筋が震える。
やはり、先ほどの流れによって、最悪の流れの中、40秒ほど耐えて引っ張って滝上へ。

先行パーティが次の滝上で、やりとりをしていた。
回収して次へ進むが、この滝で時間を使い過ぎてしまった。(この8m滝は巻くべきだった。25分ロス。)
厳しい登攀は続く。
16:09

スタートは細かいカチ系のホールドの中、高度を上げていく。
ハーケン支点を2本取り、灌木に3本目を取りながらトラバース。
最後の滝に近づくところが、大きく足を広げる大胆なムーブとなり、スリリングなところ。
セカンドで登るK氏(中村氏提供)

ハーケンの回収忘れがあったが、取りに降りてもらう時間はもうない。
パーティの枚数は5本から4本となる。
⑦暗闇の前に
16:56

次も見栄えのする10m滝となり、カメラを出したいところだったが、流石にもう暗くなってきており、TG-5で妥協。

速攻で巻きを決める。
続く3条2m滝が勝負を分けてしまった。

17:08
右から取りつけるんじゃない?
とのことで、半信半疑ながら、登ったら登れてしまったが、ロープを垂らしても後続が登ってこれない。
2人には右岸巻きをしてもらったが、8~9mほどの高さのところから、待てど暮らせど、懸垂で降りてこない。
どうやら、上からは切れて見えたようで、降りれるのか不明だったようだが、これは完全な経験値不足で、
5分で終わる高巻きに20数分以上要し、この間にほとんど日没状態に。
ゴルジュの中でテンバ適地ではなく、沢登りを強行する。
⑧暗黒遡行
17:57

日が落ちた中、この滝の水流を右から左に横断する。(この写真は撮影テクや奇跡的な現像力によって明るさが増している)
18:05

滝の原形すら怪しい中、2段9m滝の左岸巻きに入る。
ここには焚き火の匂いが漂ってきていて、もう先行パーティのテンバは近い。
初の真っ暗高巻きになるが、果たして地形は穏やかで済むんだろうか?
ヘッドライトと、チェーンスパイクを装着。
一時中村さんがついてこなくて、消失し、焦ったが、合流成功。
体制を立て直して、漆黒の高巻きを続けていく。
そうしたら、まだ感覚が冴えていたのか、ゆるりと、河原に降り立つことに成功。
⑨至福の肉団子
しばらく進んだら、先行パーティの方(後に沢ヤカさんだと判明)が来てくれて、この辺が良いなどとアドバイスを頂いた。
僕は少し離れた、右岸の平たい岩の上を寝床に決定し、15分ほど自分の体制を整えることに集中。
その間、2人が必死に焚き火を起こしてくれていて、すぐにあったかく過ごせた。
鍋周りもよく作ってもらい、野菜も肉団子も豊富に食べれて至福。星が綺麗。
暖かい。最高!!!!
いろんなことがあったが、兎にも角にもテンバに来れた。
また明日、がんばっていこう。
Kにはつったふくらはぎ用の湿布を渡し、ツェルトへと潜っていった。
⑩朝日の滝
朝、目覚めると先行パーティはもうしまい始めている。
僕はツェルトを畳んだら、テンバのすぐ先に美しい滝が落ちているではないか!

朝の撮影タイムということで、しばし、撮影に興じる。

戻って朝飯。
Kの脹脛は良くなっているようだ。
中村さんはテンバではいた靴下を着用することで、靴ずれダメージも低減へ。
ウツボグサ

今日はペースを上げないと、下山が危ぶまれる。2日目の深夜から雨になる予報と見ていた。
撮影した最初の滝は左から巻き。
小さく巻いて先に進む。
⑪岩魚止の滝
小滝で少し時間を使ってしまった。

右からのトラバースは大変悪く、腰上まで使って、滝左のフェースを登った。
下ノ岩魚止沢

TG-5のズーム撮影!
すぐ先にはこの沢のメイン滝、岩魚止めの滝、15mが落ちていた!

もちろん、三脚を出して撮影。
なかなか見事な滝だったと思う。
右壁を直登(上部は右の草付きへ)

⑫ゴルジュその1

ゴルジュ地形

少し、ムーブが細かい滝
これは後々の反省だが、もっとお助け紐を常に出せる体制にすることで、かなり時間を短縮できたと思う。
ゴルジュ!

この上は、水流に突っ込むのも左岸からもめちゃ悪く、右岸に少し登ると美しい釜!

どうも、達人の記録で、ゴルジュは全部容易に直登できるような、イメージを持ってしまっていたが、
右岸のリッジ状スラブを登れば、すぐ上に緩やかに繋がっていた。。。(結構時間をロス)
⑬ゴルジュその2
その上はいったん開けるも、側壁から落ちる滝は見事!

ここでは少し休憩した。

(中村氏提供)
再びゴルジュになって、水線状シビアな滝が現れる。
右岸から巻けると思いきや、想定外に悪く切れていてそのまま巻き降りることができない。

(突っ込んで登るべきだったか…)
ハーケンを浅打ちで決めて、スリングを介して、懸垂下降。

クライムダウンの足場は豊富だったので、支点に力をかけ過ぎず、この場を通過できた。
ゴーロ状

そうこうして、岩魚止沢の出会い。
⑭登攀の核心
広角が欲しかったので、一眼を出して撮影!!

さてと、とりついていくが、水流沿いは、厳しい水に襲われて、とても登ることはできない。
したがって、中央のリッジが対象となるが、これが遠目には簡単そうだが、
いざ目の前に立つとなかなか踏ん切りがつかない課題。
まず脆いし、加えてかなり足を上げないと、スタートを切っていくことができない。
そのため、色々工夫しながらビレイしてもらって、ハイステップを決めて登攀開始。
中間でハーケンを決め、もう少し緊張パートが続くが、確実な場所を続けて、なんとか突破。

上部は比較的支点が取りやすく、安心して後続をビレイできた。
⑮65m大滝
4m滝の後、すぐに大滝!!!

曇り風景がやや残念ではあるが、この滝はなかなか!!

開放感と秘境感を兼ね備えており、強固な滝の釜は存在しないが、
両岸の草も相まって、心に残る一本となった。
右岸から最短ルートで高巻き。良いルートが描けたと思う。(上部に3段15m滝が続いており、計65mと判断。)

中村さんは2日目のどっかの高巻き中に、チェンスパを片方落としてしまった。
⑯連瀑帯

2条5m滝

6mCS滝
この滝も同様に右岸巻きで、ロープを出す最中、連瀑の上に先行パーティが見えた。
この後は連瀑帯に突入。

3m斜瀑

6mナメ滝を上から
20m滝

全てを直登する訳ではなく、時に巻きながらどんどんと登るが、8割ほどは直登をしたように思う。

3m滝

4段18m滝
だんだんと、キャニオニア3の足捌きにも慣れてきて、滑ることを前提とした運びにすれば良いんだと自信を深めていく。

2段12m滝

2段7m滝
連瀑帯も後1~2本。
⑰事故
そんな時事故は起きた。
8mほどの明らかに、ヌメヌメの滝に取り付いていく。

時刻は14:21。
中部でピンチ&ハンドジャムホールドがある場所で、
良い手が見出せず、二点支持になって前進。そうしたら、その先でツルッといき、そのままつつーーっと滑落していった。(赤丸の箇所から…)

途中膝を強打し、2分ほど痛みに悶える。
パーティには遭難感が漂い、焦りが生じるも、ホットコーヒーを作ってもらい体を温める。
4~5分で、心の動揺が治り、平常心を取り戻すと共に、膝の痛みも和らいだ。
同時に肘も打っていた。
この滝はチェンスパ装着後、右岸巻きしてクリア。
⑱エスケープ
連瀑帯最後の滝を目の前に、地形図を眺めて決意。
ここから山頂まではさらに高低差300m必要。
しかし、1692mの登山道を目指せば、高低差130mで済む上、下山の時間も短縮できる。
エスケープを開始した。
膝は痛めていたが、上りには大きな影響はなく、視界の開けた上部を、ぐいぐいと高度を上げていく。
途中、防寒用にアウターシェルの着替え。
16時ごろ稜線に到着。

食事と痛み止めを摂取しながら、待つこと12~3分くらいで二人もやってきた。

⑲長き下山
16:23頃 出発。
ここからの下山だが、中村さんがストックを持ってきていた。
僕は今回膝にダメージを受けたので、
これに本当に助けられる。
ロープ、三脚、ハーネス、ハンマーを二人に持ってもらった。
2本のストックが、第三と第四の足となり、負担を軽減しながら下っていく。
しかしそれでも通常よりは時間はかかる。
17:27 1369m地点(6合目)
18:14 1200m地点(5合目)
20:06 入渓地点付近にて夕食開始。ここでは乾麺が二束あったので、みんなで分け合って腹を満たした。
21:07 出発!
真っ暗の中、ヘッドライトを時に充電しながら、切らすことなく、戻ってくる。
24:02 橋

24:13 駐車場着 (過去の下山時刻更新)
途中一時間の夕食タイムがあったが、日付が変わって、8時間近くかけて駐車場に戻ってくることができた。
完!!!

⑳3日目
さて、物語は続く。
林道を終え、山形市に向かって運転を続ける中、車がパンクを起こしてしまい、さらにはエンストも怪しい状況に。
ここはなんとかエンジンが持って、給油後、僕と中村さんの2名ですき家へ!(Kは食欲なく、爆睡)
ネットカフェにたどり着いた!!
爆睡…
翌日は、朝モーニングの食パンを数枚かじった後、薬局にて湿布を調達。
中村さんが車修理に向かう中、先にKと沼木温泉を堪能。
カレーうどんを食した。
大広間を500円で使用可能だが、ここは少年時代を思い出させてくれる最高のスポットで、仮眠にはもってこい。

さらに、フランスベッドさんの、スリーミー21を体験させてもらい、価格はそれなりに高いが、非常に良かったことを追記しておく。
この日は東北道が変なところで事故渋滞を起こして最低な感じ。
館林で降りて下道に入り、深夜に近づきかけて、天下一品ラーメンで締める。
家のすぐ近くに寄っていただき終了。
ありがとうございました!!!!
【今回のジオ】

花崗岩がとにかく美しくて、特に上の大きめの石はお気に入りに。
砂岩・泥岩といった堆積岩もあります。
石英脈かと思った岩はめのうと見ています。
㉑エピローグ なんとか無事
膝は幸いなことに骨に問題なし。しばらく不安な時期を過ごしたが、靭帯と半月板も損傷はないようで、膝周辺の打撲による重めの内出血状態が続いた。
本来であれば、パーティとしてもっと事前鍛錬が必要であった朝日の沢。
それを僕が力づくで強引に、成立させてしまったのかなという側面も確かにある。
だけれど、暖かい食事だったり焚き火だったり、事故った後の荷物分担や、フォローなど、二人がいたからこその活動であったとも同時に実感。
去年の七滝沢は一人だったけど、今年は一人じゃなかった。
自分だけが行けることと、チームが全員行けることは全然違う。
ファーストエイドキットも見直し。パッキングも全て見直し。
今までとは次元が違う量の課題を受け取りました。
POINT
① じんわりと深い世界。
② 心に響く良い滝あり。撮影に時間を割くには洗練されたパーティで。
③ 先人が直登してるからといって盲目的に取り付くのはアウト。日によってヌメり度も違えば、履いている靴の素材や摩耗状態も異なる。常に地形を見て判断。
④ チェンスパは高巻きで有効
⑤ 事故時(膝打撲程度)にはストックが下山時に重宝される
⑥ 2~3箇所、悪い登攀があり、IV級を確実に登れるクライマーが必要
⑦ 連瀑帯上部からエスケープ可能