沖小黒沢の滝(下流部)【山梨県 南巨摩郡 早川町 湯島】
滝の記録
訪問日 2022年4月10日
活動の形態:3級(以上)沢登り (2名 / 敗退)/ 車
装備:8mm×30+7.5mm×20m, ミラーレス一眼(広角), ラバー足袋
感動度:まあまあ (トータルで)
① 追憶の沖小黒
今生きていること、それは幻想の世界ではないのか?
沖小黒の臨死体験を経て、人生観が大きく変容した。
BALさんとは2019年7月のヤド沢以来となるだろうか。
随分と時間が空いてしまった。
長く活動を続けることは難しい面もあるし簡単な面もある。
無理のないペースで続けられているところは本当に素晴らしいと思う。
謎の大滝の探訪に努めるが、あまりリサーチをしてこなかった。
早川の対岸に渡り、川岸を歩いて対象の沖小黒沢に進む。
② 荒れた渓相
いくつか堰堤をやり過ごして入渓すると、がれがれの渓相で小滝が出現。
登った後
次の滝
流れ
崩壊してしまったであろう滝
果てしない大崩落地
大きめの滝が見えた
③ 第一の滝
目的の滝の前には2つ滝があるらしいことを、BALさんが航空写真で目処をつけていた。
おそらくは20m級の滝だったのだろうが、下部の大半が土砂の堆積で埋まっている。
無骨な滝で、危険性もある。
滝左横のルンゼ登攀があり得るが、4月上旬の早朝で滝の飛沫が冷たすぎる。
震えてしまって、とてもではないが登攀できなかった。
戻って巻きルートを模索する。
④ 左岸に取り付く
実はこの部分、右岸は数百mの絶壁となっていて、巻きは論外。必然的に左岸巻きとなる。
お互いに、ここは行けそうだね?
という棚を左岸に発見。
そう5~10m程度頑張って登れば、バンドとなって上流側にトラバースできそうなのだ。
ロープを出さずに10m程度上がる。
そうしたら思っていたよりも上からでないと、巻けなさそうなので、ここでロープを出して、2~3ヶ所危険な箇所を突破しながら登った。
⑤ 気がづけば窮地
しかし崩壊壁でほぼ良い支点が取れない。しかもトラバースがまだできない。。
BALさんがハンマーを持っていなかったため、ハーケン回収が一部できないまま上に押し上げられる。
この時点でかなり危うくなっていた。
懸垂で下がろうにも、打ったハーケン支点が結構怪しく、崩壊の可能性がある。
比較的横に場所がとれるところだったので、良い支点が取れないか二人で相談したが、上流へのトラバースルートは論外で一致。(下りも避けたい…)
ここからは1~2段階厳しい登攀が始まった。
⑥ 悪魔の壁
崩壊壁なので30~40%のパーツは崩れる。
そのため、細心の注意を払わないと飛んでしまう。
丁寧に丁寧にこなして、そこから15~20m程度ロープを伸ばしただろうか?
微妙すぎる斜面の中、少し出っぱった岩にロープがかけれたので、ここも支点にしてみたが、心もとなさすぎる。
右手でその支点を持ちながら、BALさんの登攀をほぼ左手のみで引っ張りあげるが、
途中一回落ちかけるなど、危ういところがあった。(ここで左手の皮が剥ける)
さらに進んでいく中、ロープを連結していたが、当然ながらランナーで引っかかるなど、あり得ないミスで、ザレ斜面をフリー下降するなど、異常に怖いシーンで一回絡みを解除。
常に一段階上に抜ければトラバースできそうに見えるのだが、実際にその棚に行ってみると、外傾甚だしく、全くもって無理。
お互いにまともな支点をほぼ持てていないので、リードの僕が滑落したら、二人とも逝ってしまうことは目に見えていた。
⑦ 崖の中の後悔
後ろを振り返れば、絶望しかない圧倒的高度。
ハイステップを切らなければ、次のホールドが効くのか効かないのかがわからない。
だけど、その次のホールドが効く保証はなく、ハイステップを切った瞬間、スタンスの崩壊や、クライムダウン不可の可能性も出てくる。
左手のホールドが動いた。持って1分だろう。
でもその1分間は存在していてくれないと、次の手を探すための時間や余裕がなくなる。
全身の神経を研ぎ澄ました。
もう半分死の世界に足を突っ込んでいる。
崖の中で後悔をした。
– あの子に厳しいことを言いすぎたかもしれない。
– もっと違う言い方があったんではないか?
⑧ 目の前の最適ムーブ
そんな感情がよぎるも、結局は目の前の最適なムーブに集中し続けるしかない。
・ホールドはどっちに効くのか?
・足の置き換えはいつ行うのか?
しばらく行けていなかったが、空四で積み重ねた当たり前の動きを反芻していく。
一瞬かなりスタンスが崩れかけて、死を覚悟した。
まだやるべきことある、死ぬわけにはいかない。そんな気持ちで最後まで諦めることはしなかった。
ハイステップを繋ぎにつなぎ、ギリギリのところで「小枝」を掴むことに成功した。
⑨ 小枝から尾根へ
ここでセルフビレイも、BALさんを完全ビレイできる環境ではない。
既にこの異常に緊張する崖の中に2時間弱、ふくらはぎはいつ機能しなくなってもおかしくなかった。
BALさんがロープを斜めに繋がったまま、やや下で木々にトラバースを決めてくれた。
そうして上に上がってロープを垂らしてくれて脱出。
完全に顔面から水分が抜け切っていた。
ここからは懸垂下降で多分降りれる。
一定の高さに降りると、さっきの滝を、そのまま巻けそうな地点に到達する。
一瞬、攻めて巻いてしまいたい気持ちに駆られたが、お互い足が限界に達していることと、時間的な問題から、懸垂を継続することに決定。
最後は若干長さが足りず、ジャンプが必要な形ではあったが、沢床に降りてくることができた。
悪魔の壁(Devil Rock)を眺める
⑩ その後
少し撮影タイム。
少し離れて壁の全体像を確認した
そして戻っていく。
どこかでラーメンを食べた。
解散
⑪ 沖小黒の臨死体験
生かされたとしか言いようがない体験をした時、人は神の存在を直視せざるを得ない。
ちょっとした気まぐれで生はなかった。あの世とこの世は同時に存在している。
あれは運否天賦の世界であり、いくつか皮膚が飛んでいる箇所があったが、全くどのシーンで飛んだのか記憶はない。
走馬灯ほどいろんな思いは起こらなかったが、崖の中の後悔から学ぶものがあった。
沖小黒の臨死体験、それは体験すべきものではなかったが、体験できたこともまた、何か意味があるのだろう。
アウトドアとしては恥ずかしい記録。原因の振り返りを行いながら、覚悟を持って日々生きていきたいと思う。
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