中津川の滝
神楽滝 熊落滝 朱滝 【福島県 耶麻郡 北塩原村 桧原】
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今回のこの沢での活動について、
どういう角度から書き始めたら良いのか、
どのようなバランス配分にしたらいいのか、
まったく纏まらないまま、筆は進み始めた。
中津川には
素晴らしい滝々が流れ落ちていて、
それらを1泊2日で駆け抜けた活動といえば活動。
ただそれは生半可なものではなく、
気力・体力・腕力・脚力・技術・知恵・・・
それら持てる力の150%を出し尽くしてもなお、
中津川は僕に牙を向け続けた。
日本百名谷の1本、
3級上、中津川渓谷への挑戦。
滝の記録
訪問日 2016年7月1~2日
活動の形態:上級滝巡り&沢登り(単独)/レンタ
装備:沢タビ, 8mm30m×1, 泊装備
感動度(神楽&朱):かなり~限りなく
①中津川レストハウス
高速道路は意外と近くまで伸びています。
降りてからしばらく休憩をとって、
中津川レストハウスに到着。
ここで準備を開始しますが、
泊まりということもあって
やはりとんでもない分量。
次までに軽量化を図ります。
ずしっと背負って渓谷へと向かう。
すぐにこのようなごつごつした
河原にたどり着き、さっそく遡行開始します。
とても綺麗で美しい滑床が続き、
南東北の沢にやって来たんだな
と嬉しい気分に。
しかし、序盤には難関箇所が待っています。
果たして自分に突破できるんだろうか、
徐々に緊張感が高まっていきました。
②U字の谷 白滑八丁
沢の中央の釜が深くなり、
左からのへつりが必要になりました。
先に見えるのが白滑八丁の入口です。
ここは泳げば突破できると思います。
けれど、明らかに足がつかない水深で、
どうしても落ちたくありません。
それでもって足の置き場が足りない右岸。
途中足は攣りそうになり、
「落ちる!!!!!!」と
何度も心で叫びながらも、
ほぼないスタンスをつないで、
ぎりぎり突破できました。
振り返った核心部↓↓
白滑八丁は入口にたどり着くことすら、
一筋縄ではいきませんでした。
ここで一安心。
30分以上もかかりました。
三ツ釜の滝(仮称)
ここは微妙な傾斜を右から直上しますが、
先ほどが悪すぎたため、精神状態が
異常に突入していて問題なく突破しました。
一度残置ロープ頼りに
5~10mほど左岸を巻き気味に突破しますが、
その後は少し落ち着いてきました。
U字谷を闊歩しながら、
先ほどの悪場を思い出し、
いやあよく超えたもんだとか思ってました。
しかしこの後徐々に中央の釜は水深を増し、
両岸の傾斜は増し、
かなりえげつないトラバースが始まります。
左岸沿いを進んでいきましたが、
難所を切り抜けて行き、行き着いたのが
1.5m程度の滝でした。
下の写真の右手側に
真ん中につっぱりでた箇所がありますが、
右からこの傾斜を越えるのはあり得ないので、
あそこで対岸にジャンプしようとしました。
いや、ジャンプしました。
そしたら、あれえという感じで、
跳べると思った距離が跳べず、
まず左足が水中に落ち、
左の頬が対岸にぶつかり強打しました。
痛い!!そして溺れる!!死ぬ!!
ジャンプしたスタート地点でなんとか上がれて
一旦左岸を引き返し。
泊まりの時はジャンプの飛距離は
30cmは落ちると見たほうがよいと知りました。
ここにくるまでも
相当無茶してやって来たので、
前に戻るのも相当大変。
というかこのU字谷を高巻くのは不可能だ。
そしてもう一度ジャンプ場に戻って今度は、
ジャンプせずに普通に降りて
対岸にしがみつこうと決意。
そしてやってみたら、
右岸の該当の箇所が外傾していて全くつかめず、
溺れそうになって、命からがら再度浮上。
もうダメだ。
かなり戻ってからの高巻きしかない。
けれど、戻るための左岸移動も高度感を伴い、
心が折れそうになります。
ここはハンマー投げか???
いや、ハンマーが滝を越えて
ザイルで繋がっても、
水線状に激流を越えなければならず、
明らかに不可能。
しかし手前でふと右岸を見ると、
胸までつかって渡渉すれば
対岸に渡れることに気が付きます。
なるほど、距離は長いが、
右岸から12~3mを越えれば良いのだ。
早速開始。
最初は軽快に進みますが、
途中から平行線で辿れず、
上へ上へ押し上げられます。
と、同時にスタンスがもろになくなって、
絶望的な様相を呈してきました。
まだ、滝の手前だ。
絶対に落ちれない。
微妙なスタンスは続き、
行き止まった場所で足は痙攣を開始。
押し上げられてもほんの少しでも、
上流側に進むしかない。
落ち口に差し掛かったその時、
あああああああ。。。
ついに落ちる自分。
わずかな意志は体を動かす。
落ちた場所は、
ほんのわずか落ち口の上でした。
たった1.5mの滝
たった数mの距離、それでも天国と地獄の境目。
抜けられたこと・生きていること
ありったけの声でこのU字谷で吠えました。
③魚止丿滝とゴルジュ帯
こうして始まった中津川渓谷の遡行。
初っ端から異次元な難易度で、
メンタルが磨耗し、
足が崩壊しそうでしたが、
それでもなんでも
難所の白滑八丁を超えたわけであります。
よくよく調べてみたら、
この後出てくる取水堰堤の上までは
道があるらしく、上流の滝群だけなら、
白滑八丁スルーできたっぽいです笑
笑えるけど笑えない。。。
【魚止めの滝 15m】
魚止めの滝は普通に名瀑。
落ち口がクロス状になっているのが特徴で
滝壺の広さ、雰囲気の良さなど、
一級のものがありました。
左岸高巻きで越えた先には
魅力的なゴルジュ帯がありました。
下の4m滝はたしか
結構スリリングな登攀が必要でした。
左からバンドにのっかり、
ホールドを掴んで滝壺の側壁をトラバース。
たぶんこの滝のはずですが
写真的には全くわかりません。。
取水堰堤があるのでこれを越えていきます。
④銚子口から第二ゴルジュへ
取水堰堤の先で少し休みました。
穏やかな河原帯が広がる場所です。
しかしこの先、僕を待ち受けるは、
中津川渓谷、第二ゴルジュ。
どこまでが第二ゴルジュかは
よくわからなかったですが、
そのスタートは下の、銚子口になります。
落差は1mの可愛い感じの滝ですが、
滝壺は広大で、色も美しく、
泳げるような場所です。
右からへつっていき、落ち口を越えました。
この銚子口のすぐ上は
これまた微妙な登攀を要求され、
懸垂下降をした記憶があります。
こういう綺麗なところもありつつ、
下の連瀑に突入します。
基本右からへつる感じで突破します。
見た目ほどは難しくなかったです。
振り返った流れ↓↓
この大釜を持つ5m滝は
右から普通に登った気がします。
この後谷は狭まり、
腰上・胸までの渡渉で抜けていきます。
観音滝の手前ですが、
対岸に行くためには泳ぐしかありません。
岸を思いっきり蹴ったら、
いい感じで泳げました。
【観音滝 20m】
ようやく見れた、2本目の立派な滝!
この滝も広い滝壺を従え、
実に良い滝空間を備えていました。
⑤早めに休息
観音滝も左岸を高巻きます
2条の美瀑がかかっていたり・・・
2段の小滝も良い雰囲気で落ちています。
ここは泳いだほうがよいと思います。
泳ぎを嫌って、
左の壁を見たら残置ロープがありました。
しかし、残置ロープにたどり着くまでには、
足場のかなりないクライミングが必要で、
下にはかなり深い釜が待ち受けています。
たぶんIII+くらいはあった、
神経をすり減らすようなクライミングの末、
残置ロープの手繰りよせに成功!
ごぼうで登って越えました。
この滝は左から小さく越えます。
所々、支流も落ちています。
白滑八丁の異常な空間、
身をすり減らす微妙な登攀、
胸までの渡渉や泳ぎ等、
過去の限界を1日で
十何回突き破ったんだ?という疲労の中、
もはやこれ以上進む気になれず、
広めの河原を宿としました。
ウインナーとおでんを食しました。
二度目の沢泊ですが、
寝袋とマットが濡れてなくて快適でした。
ただ、衝撃は大きく、
生きて帰りたいということ
予定より大幅に遅れていて、
とにかく朝の出発時間と
全体的なペース配分が命ということ、
翌日の核心部のイメトレを
何度も何度も繰り返しながら、
眠りに落ちていきました。
【1日目 タイム 行動時間 9時間20分】
7:18 駐車場発
7:27 入渓
7:55 白滑八丁入口近く
8:28 白滑八丁入口到達
9:10 白滑八丁核心部着
9:57 最後のアプローチ開始
10:03 核心部突破
11:09 魚止めの滝
12:40 取水堰堤
13:22 銚子口
13:51 連瀑
14:36 観音滝
15:10 2段5m滝
16:40頃 幕営地着 行動終了
⑥二日目、始動 滝々との出合
早めに寝たので睡眠は十分。
けれど夜明けの沢はちょっと怖く、
4時20分頃ツェルトを出て起床。
朝ごはんはちょっと少なめに食べました。
ツェルトなどの片付けも有り
行動開始は5時10分になりました。
しばらくはゴーロ帯。
といっても単調ではなく、
いくつもの色を見せるゴーロ帯でした。
緑の色付きも映えるあたり
恐竜はここにいたんだろうか・・・
しばらく行くと、
左岸から権現沢が豊富な水量で合流。
見えるは、権現滝です。
こんな過酷な沢登りをしていないければ、
普通に近づいて、
しっかり観賞するであろう滝です。
ここはさっとおわかれして、神楽滝へ。
【神楽滝 40m】
珍しく、かっこ良い滝名に恥じない、
勇ましさと秘境感を漂わせている神楽滝。
アクセスが悪すぎるのが玉にキズです。
友達の誰にも紹介できません。。
大好きな濁河川の
根尾の滝にも似てるなと感じました。
今回のコース中の、
3大大高巻きの1本がこの滝です。
左岸からですが、
歩きやすいほうにいき続けると
権現沢のほうに近づいてしまい途中で方向転換。
そんなに難しくないはずが、
40分近い高巻きになってしまいました。
かっこ良い、神楽滝の落ち口↓↓
すぐに夫婦滝が現れます。
規模は7~8mでそこそこ雰囲気があります。
滝の左も登れそうでしたが、
より左に残置ロープがあったので
無理せず利用しました。
そしてその直後にこの滝が。
【静滝 12m】
静滝は流れがまずもって美しく、
さらさらで滝名通り静かな空間です。
どちらかといえば、萎縮しがちな中津川の滝々の中で、
本当に癒やされたのはこの滝でした。
直登する人が多いようですが、
実力的に無理なので右から高巻きします。
小ルンゼを登って尾根に移りますが、
けっこう疲れるルートでした。
高巻き途中に支流から水を汲みました。
そして・・・
【熊落滝 15m】
今回楽しみにしていた1本、熊落滝です。
側壁の高さは滝の3倍くらい。
とんでもない地形に滝が落ちています。
呆然と滝を眺めて休憩した後、
高巻きに入ります。
⑦熊落滝大高巻きからの朱滝
左岸からですが、
岩壁が高くまで伸びるので、
けっこう戻ってから岩壁の上まで
つきあげることになります。
尾根を登った後、
途中から小沢を登って行きました。
上流側にトラバースを繰り返します。
ここからは出来る限り小さく
ルート取りしながらも、
けして滑落はしない箇所を攻めました。
熊落滝は超えたと判断できた後、
下降地点か??と思う箇所はありましたが、
下まで降りきれるか確信がもてずさらに高巻きました。
するとなんと、熊落滝の上の謎の大滝の上に、
懸垂下降もなしに降りることができました。
記録では誰もが懸垂で降りているようなので、
拍子抜けでしたが、逆に熊落滝の
上に懸垂で降りたら、
この落ち口の下の
謎の大滝を越えなければいけないわけで、
それこそあり得ない、
危険な選択肢だと思うので、
今回のルートどりは良かったと思います。
(80分近くかかりましたが・・・)
後日調べてみたところ、
この謎の大滝は「不忘滝」と言い、
落差40mを誇るそうです。
さらに今までの遡行者も基本、
不忘滝はセットで巻いており、
さらに高めに巻いたために、
懸垂が必要だったようで、
僕のルートは結果的に最高だったようです。
次の5m滝は右から直上しました。
魅力的な支流の先の筋滝
(滝壺で2本の支流がさらに合流)は
これまた多くのパーティが直登する箇所でした。
僕も一旦はとりついてみましたが、
核心部は難しく、高巻くことにしました。
多くの人が高まかない分、
ルートは悪く、大変でしたが、
次の泳ぎが必要な滝も合わせてセットで巻きました。
次の滝は空身で越えた後、
カラビナで連結したザックを
お助け紐で荷揚げしました。
ひっかかってかなり大変な釣り上げで、
お助け紐も切れそうだったので、
次回からはやり方を変えようと思います。
右腕は半分終わってしまい、
徐々に赤茶けてくる河原を進んでいきます。
【朱滝 60m】
ついに朱滝です!!
その落差、雰囲気、沢の中の位置から
中津川の盟主として君臨しています。
この時の僕には
滝を十分に楽しむ余力もなければ、
朱滝の魅力を感じ取る感覚の鋭敏さも
ありませんでした。
ただ、満身創痍の状態で大きく、
カラフルな滝と対峙している。
滝見の質をあげるために、
あちこち動きまわったりして
などのエネルギー消費は、
この後の行程を考えたらできないことです。
制限のある滝見でしたが
自分の生きたいんだという気持ちを
再確認させてくれるものにはなりました。
朱滝が素晴らしかったことは、
間違いありません。
⑧巻いて詰める
朱滝高巻きは、
けっこう戻ってから
キツめの傾斜にとりつきました。
足場が悪く体力が奪われます。
しばらくのぼったら右手に
もっと登りやすそうな尾根がありました。。
ここからさらに高度を上げながら
上流へ道を切り開いていきます。
所々、道か??
と思うような箇所がありますが、
けっきょくどれも道ではなく、
歩きやすいところを選びながら進みます。
無事、懸垂無しで越えられましたが、
55分ぐらいかかりました。
小滝はたまに出てきますが、
もう難所はなくなります。
赤茶けた河原、ヤケ丿ママは
どこだかわかりづらかったです。
それらしきところで休憩し、
詰めに向かいますが、時間的に
かなり切羽詰まってきていました。
面白い斜面
支流との合流。
決定的な二俣で、
北に伸びる右を最初選択しましたが、
よくよく考えたら本流は西へ伸びるほうで、
ぎりぎりのところで引き返して、西へ。
ここからもかなり長く、
重すぎる荷物で肩が痛過ぎでしたが、
「進むしかない」と言い聞かせて前へ。
ついに稜線が開けてきて、
嬉しい気分になりますが、
過去最悪の藪漕ぎが待っていて、
ヤブを越えるのは心折れそうでした。
そしてついに・・・
登山道発見!!!!!!
この時時刻は15時30分になっていました。
⑨下山
沢靴の履き替えなどで出発は15分後。
この後南へ道を進み、
⇒梵天岩⇒西大巓⇒グランデスキー場上
へと向かいます。
【梵天岩 2004m】
【西大巓 1982m】
この辺りはブヨっぽい虫が多く、
けっこう襲撃を受けました。
西大巓で電波が開通。
スキー場上から下に降りる、
ゴンドラ時間を調べた所、
16時までで既に終了していることを知ります。
西大巓と梵天岩途中の
西吾妻小屋で泊まるべきか迷いましたが、
今夜からの予報は雨。
明日の早朝のゴンドラも
運行中止の可能性もあると考え、
下山を続けます。
この日の行動時間も13時間を過ぎたころ、
18時過ぎにスキー場上の
ゴンドラ周辺に着きました。
しかし、ゴンドラなしで
下まで降りる道が不明でした。
スキー場に電話して教えてもらいましたが、
そのやり取りの中で、
車で来ていただけることに。
(林道には熊が頻繁に出るとのことで)
しかも、下までだけでなく、
中津川レストハウスまで送って頂きました。
ご迷惑をおかけしましたが、
本当に有りがたかったです。
時刻は20時を過ぎていました。
その車での移動中、
雨は激しさを増し、豪雨となります。
最低限着替えて、眠りにつきました。
⑩まとめ
「その向こうへ行こう」
というのがテーマではありましたが、
美渓として名高い中津川を楽しめる余裕はなく、
白滑八丁に時間がかかりすぎたこと、
一日目早く切り上げすぎたこと、
そもそも1泊2日は苦しいことから、
かなり体力的に厳しい行程になりました。
中津川の水量はおそらく平水で、
グレード的には通常だったと思いますが、
観音滝手前などは泳ぎはマストで、
4~5mの滝はIII級レベルの登攀ができないと、
行き詰まる可能性が大です。
三大大高巻きは、
滝屋でも突破は可能ですが、
沢屋の方々が「ルーファイの力が問われる」
と言うぐらいなので、
易しくはなく、経験は必要です。
本流の滝はどれも豪快で見応えが十分。
どの滝にも異様な緊張感の中、対峙しました。
吾妻連峰、中津川一番の秘瀑は、
朱滝でも、白滑八丁と取水場の間の
魚止めの滝でもなく、
熊落滝上の不忘滝でした。
無事に帰還できたことが全てです。
【追記】
中津川は主に二つの地層からなり、
静滝あたりより上流は比較的新しい、
中期更新世(15万年~70万年前)の地層。
中流部までは
前期白亜紀(1~1.46億年前)の
阿武隈花崗岩帯となるため、
そこまでは恐竜がいた時代に
形成された岩盤でした。
【2日目 タイム 行動時間13時間】
4:25 起床
5:10 遡行開始
5:56 権現滝
6:06 神楽滝着
6:15 神楽滝発
6:53 神楽滝落口
6:58 夫婦滝
7:06 静滝
7:32 熊落滝
7:42 高巻き開始
8:58 高巻き終了
9:29 筋滝
10:30 朱滝着
10:48頃 朱滝発
11:45 朱滝落口
12:33頃 ヤケ丿ママ(もしくは少し先)
<<二俣を左(西)本流へ進む>>
15:30 登山道発見
15:45 出発
16:23 梵天岩
17:21 西大巓
18:26頃 スキー場上着
<<お助けいただく>>
20:00 中津川レストハウス
アクセス
Step1 中津川レストハウスへ
Step2 遊歩道を進む
Step3 入渓して北へ
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