リンチョウ ヒカゲ沢大滝【静岡県 榛原郡 川根本町 千頭】
リンチョウ
そのカタカナ表記の不思議な沢は、
大井川支流、寸又川の源流部に位置する。
林道歩き40kmという圧倒的な秘境感。
手付かずの自然。野生生物たちとの遭遇。
そして、目的の大滝。
いつしか僕にとって、
憧れと変わったその場所に、
挑戦する時がやって来た。
滝の記録
訪問日 2018年7月14~16日
活動の形態:3級 (3人) / 車
装備:8mm×30mm×2, 沢タビ
感動度:異次元
①リリカ
体は万全ではなかった。
腰に謎の激痛が走り、腰痛本を熟読。
治療院にも行ったが効果はなく、
最終的に処方箋で手にしたのが、
神経痛に効くリリカ。
BALさんの車に乗車した後も、
座っているだけで時々腰の位置を
変えないといけないほどで、
心が何処か別の場所にあるような、
戻ってこれない場所に行ってしまうような、
不安を打ち消すために僕にできるのはただ、
リリカと処方した女医を、
信じることだけであった。
②計画
昨年の夏に、ずっと気になっていた、
成瀬さんの某書の記述を再度読み込んだ。
そちらには「場所は「幻」ゆえ明かせない」
とあって、謎のベールに包まれていた。
ただ、微かに記述に手がかりはあって、
地形図とにらめっこしたところ、
リンチョウの存在が目に止まった。
そしてブログ
「川の虫」さんに行き着く。
おおよその位置を突き止め、
さらに複数の文献を読み込んで、
位置を確定させてゆく。
大滝を目指すにあたって、
BALさんと様々なルートを検討してみたが、
静岡側から林道を40km歩くルートは、
とても現実的とは思えない。
なので下記の2泊3日の計画を考えました。
1日目は、長野県側の池口岳登山道を経由して、
池口岳北峰を登頂。
適当なところから、
ダルマ沢へ下降し、広河原まで降りる。
2日目にリンチョウ沢を遡行して、
支流の大滝に到達。
十分時間をとった上で、
ダルマ沢の上流部まで移動。
3日目は余裕を持って、
半日で下山をする。
長丁場の行程となります。
③池口岳の登山
登山道の入り口に、
たどり着くまでの道はダート。
平均的な最低地上高の車では、
まずアウトなので注意です。
当初は6時には登山開始したかったこの日。
そのダートの処理などもあり、
出発は8時を超えてしまいます。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_start.jpg)
登山道の入り口には、
標準のタイムが載っており、
それを見ると6時間20分!
なかなか険しそうです。
ザックを背負い、
登山を開始。
腰の不安から、
ロープ30m2本は同行のBALさん、
あっきーさんに持って頂きました。
助手席でのドライブも厳しかった腰は、
まだ悲鳴をあげて来ない。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Ikeguchi_road_A.jpg)
黒薙の美しい景色
![](../wp-content/uploads/2023/10/Kuronagi.jpg)
ザラ薙
![](../wp-content/uploads/2023/10/Zaranagi.jpg)
前回黒川で見た水晶薙から、
薙が続いており、なぜか惹かれたけれど、
いつか「薙色」を立ち上げる日は、
来るんだろうか。
途中トラブルもあって、
池口岳登頂には7時間以上が経過。
(標高差 1316m / 水平距離7.8km)
![](../wp-content/uploads/2023/10/Ikeguchi_top.jpg)
展望を得られないこの山の頂も、
この先に得られる感動の分の、
配役なのだと解釈。
④下降路
今回はダルマ沢を源頭部から
沢下りするのではなく、
南峰のすぐ東の、
尾根を下降することにします。
北峰から南峰までは多少距離があり、
一気にトレースが薄くなってくる。
南峰頂上まで30mの距離に行きながら、
登頂をしないで尾根下降の方向へ。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_one.jpg)
しかし、この
下降尾根を選択するにあたり、
まともな踏み跡がなく、ここで大丈夫か?
というところと、
あっきーさんが足を
痛めてしまい、時間の余裕が
なくなっていることから、
ルート途中のテン場に戻って、
撤退か??という部分で
難しい判断を強いられました。
ここは諦めずに進みます。
降り始めてすぐ険しい傾斜が続き、
尾根が絶壁になったら左右のどちらから、
回り込んで下降路を模索。
絶対にこんなところを、
登り返しはしたくない!
と思えるような尾根を、
しばらくは降ります。
その後傾斜が緩くなると同時に、
右からは沢音が大きくなり、
全体的にガスに包まれてきて、
笛を吹きながら平和な尾根降りに。
しかし、地形図通り
最後はやはり険しくなり、
ここもロープは出さなかったものの、
急な箇所の連続でした。
標高差500mに及ぶ
下降を終えた時には、目の前に
想像もつかなかった、ダルマ沢の流れが。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_yousu.jpg)
もやの中、幅広の川筋に、
多くの倒木が詰まる記憶にない風景。
時間もないので、
本日中の広河原到達は諦めて、
ちょうど降りた場所をテン場としました。
整地をサボってしまい、
斜めった場所に寝てしまい、
疲労回復が微妙でした。
1日目 コースタイム
8:00ごろ出発
9:30 牛首
10:40 黒薙
12:23 水場下降点
14:20 ジャンクション
15:04 池口岳登頂
18:09 ダルマ沢着
⑤ダルマ沢、降りる
2日目、沢を下降し、
広河原を目指しますが、
標高差にして450m残しています。
ただ、この日はテン場を
ベースキャンプにできたので、
荷物を軽くして動くことができました。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_taki.jpg)
ダルマ沢下部には滝がたくさんあって、
沢筋が広いので必ずしも滝にかかわらずに、
降りれてしまう点もあり、
ペース的には嬉しいけれどもどこか物哀しい。
4m滝
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_4m.jpg)
2条4m複瀑
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_2j4mfukubaku.jpg)
6m斜瀑
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_6mshabaku.jpg)
右岸支流の13m滝
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_13m.jpg)
約2時間ほどで広河原に到達する直前、
ダルマ沢出合の大杉に出会う。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_powertree.jpg)
パワーツリーに力をもらって、
広河原へ。
⑥リンチョウ!
鹿が1匹おりました。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_shika.jpg)
源流部にも関わらず、
この雄大な広河原!
「リンチョウーーーー!!!」
約1年憧れ続けた、
リンチョウ沢に到達できてもう感激。
ここからしばらくはゴーロ歩き。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_go-ro.jpg)
ゴーロに少し、
ミニゴルジュが折り合わさるような形で、
上へ進んでいく。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_minigorge.jpg)
そうして到達したは、
核心部のゴルジュ地形。
近づいて見ると、
4mのゴルジュ入り口の滝が
轟々と水を落としている。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_4m.jpg)
先行者の記録では、
これを1段ずつ突破して行っていたが、
それには登攀において、
高度なスキルが求められる。
すぐ右のクラックを登るルートが目に入るが、
上の斜部の岩場が怪しく、中間支点を
絶対に取らなければいけない高度感で、
力量に見合わないルートだと判断。
右岸巻きを始めます。
⑦ゴルジュを越えて
最初は岩場、
途中から足場の悪い
グズグズ斜面になっていく。
慎重さが要求される場所であり、
今回はフリーで斜面を登ってしまったが、
ロープを出して確保できる体制を取ることが望ましい。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_maki.jpg)
ここからはどういうルートを描くか。
一回の懸垂下降を交えて、谷に近づき、
そこから急斜面のトラバースルートへ。
ここもルーファイが当たり、
ピシッとゴルジュ内3連の
一番上の滝上に降りられた。
核心部ゴルジュを越えられて
あとは出合を見逃さないだけとなり、
一安心。
思ったより長く沢を登り、
ヒウチ沢の出合2段滝も過ぎれば、
いよいよ「問題の切れ込み」の箇所だ。
⑧ヒカゲ沢
「ヒカゲ」というのは、
この深南部の地域に生息している
蝶々の名前らしいが、
それがこの沢の由来かといえば、
それはそれでよくわからない。
登り始めて本当に僅かで、
遥か上方から落ちる大滝が目に入って来る。
合っていたんだという安堵。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_I.jpg)
この場所だと本体の滝と、
目の前の15m「前衛滝」がねじれていて、
木々に隠されて、
全景を一望することが難しい。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hikage_15m_A.jpg)
目の前の滝も簾状でなかなかだが、
本体の大滝が気になって、
ワクワクした気持ちでいっぱい。
ここは右側から岩場を登り、
斜面を繋げていけば越えられるが、
安全とは言い切れない部分である。
そうして越えていけば、
しばしの距離で滝前に。
⑨深南部一の大滝
滝名のヒスイの滝は、
ブログ「川の虫」さんでの記述。
誰が名付けたのか不明だけど、
間違いなく先人がつけた名前。
「リンチョウ ヒカゲ沢大滝」と、
併用させて頂きます。
規模として90m以上はあるだろう。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_B.jpg)
近くで見てそれだけ感じるということは、
本当はもっと大きい可能性は全然ある。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_D.jpg)
解き明かしたパズル。
点と点を繋げて、
線にできた嬉しさが全身に広がる。
到達時は光が上部に当たらず、
綺麗な見た目だったが、
写真としては上の直瀑が見えなくなる。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_J.jpg)
岩場を登って滝近くで撮影。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_L.jpg)
1時間ほど待ってみると、
いよいよ上段にも光が当たるようになり、
滝本体がよりくっきり一望できるようになる。
青空はだいたい出てくれていた。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_F.jpg)
滝の姿形も極めて、
美しいものだとも思う。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_H.jpg)
ただやはりその環境は、
頭1つも2つも抜けて違う。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_C.jpg)
滝めぐりにおいて、
到達困難な秘境系に惹かれてしまうこと。
それによって本当に費やした時間、
危険を侵したリスクに見合うリターンは
得られているんだろうか。
他の選択をし、
成果が出るまで行動すれば
より高い幸福感が得られてはいないか?
それらの問いかけに心の蓋をしては
いけないとは思うけれど同時に、
好きな滝に向けた純粋な努力は、
非常に尊いと、また思う。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Hisui_G.jpg)
そしてこの滝は良かった。
慎重にテン場へと帰還しました。
2日目 コースタイム
6:30 出発
7:14 2条4m複瀑
7:48 6m斜瀑
8:05 13m滝
8:24 広河原
9:27 ゴルジュ4m滝
10:05 ゴルジュ巻き終了
10:29 ヒカゲ沢出合
10:40 前衛滝前
10:56 大滝前
12:45 頃まで撮影
13:07 前衛滝前
13:57 ゴルジュ巻き終了
14:46 広河原
17:00前 テン場着
⑩ネイチャーフォトグラファー
初日に思ったよりも進めなかったことで、
逆に2日目は身軽に行動ができ、
3日目の沢詰めのスタート地点も
悪くない場所となりました。
実は今回スマホの
充電ケーブルを忘れてしまい、
最終日の道中を撮影するために、
ほとんどミラーレス出しっ放しの
沢登りになりました。
気分はネイチャーフォトグラファーです。
8m滝
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_8m.jpg)
右岸巻き。
10m滝
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_10m_C.jpg)
横に飛び出す感じがとても良い。
右岸巻き。この巻きの途中で、
カメラのキャップを落としてしまう。
(ヒモ付きで落とさないようにする工夫を学びました。)
6m滝
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_6m.jpg)
左側から直登。
12m滝
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_12m.jpg)
右岸巻き。
露出した岩場のトラバースの後、
斜面を這い上がり、
ロープを出して次の滝へ。
18m滝
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_Otaki_C.jpg)
これは下の12m滝と合わせて、
2段30m滝と見ることもできるが、
全景を一望できないことと、
少し段瀑ぽくなかったので別扱い。
ダルマ沢一番の大滝で、
なかなかの格好よさ。
戻って右岸巻きで越えると、
谷は開けて源頭部の様相となる。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_gentou_A.jpg)
普段はこの画角で
通常の沢風景を切り取らないので、
なんか違和感があります笑
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_gentou_B.jpg)
地形図を丁寧に拾いながら分岐を進み、
7段10m滝も軽快に登って、いよいよ尾根へ。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_daruma_7dan10m.jpg)
尾根途中で大休止。
ここからすぐに、
登山道に上がれて下山開始。
⑪降る
ここからはジャンクション、
ザラ薙、黒薙と少しずつ戻っていく。
加加森山と光岳
![](../wp-content/uploads/2023/10/Kagamori_Tekari.jpg)
膝あたりを痛めてしまい、
徐々に歩行が辛くなる。
あっきーさんの、
いつも以上に速い高速の下山について行けず、
苦しい時間帯が続きました。
もう少しで下山かというところで、
犬の遠吠えのようなものが聞こえ、
よくよく遠くを見ると黒い物体を視認。
熊同士が喧嘩?威嚇しあっている模様で、
鈴を鳴らしながら慎重に下山を続けた。
ちなみに笛はダルマ沢途中の移動で、
先が千切れてしまい紛失しましたが、
貴重なアイテムなので、使時以外は
首にぶら下げたままはダメだと知ります。
![](../wp-content/uploads/2023/10/Rincho_gezan.jpg)
ついに戻ってきました。
3日目 コースタイム
6:10 出発
6:30 8m滝
6:46 10m滝
7:06 6m滝
7:28 12m滝
7:47 18m滝
8:55 7段10m滝
10:22 ジャンクション
14:56 下山
→温泉
今、各日のタイムを振り返ると、
意外と余裕あるように見えるけれど、
間違いなく体力系のコース。
それでいて、ゴルジュの高巻きや
ダルマ沢の詰めも含めるなら、
際どいトラバースを、
当たり前にこなせる力が必要でした。
1泊2日でも健脚なら
ギリギリ行けると思いますが、
それで滝前が楽しめるかは怪しいと思います。
⑫まとめ
成果もあれば、課題もあり、
楽しさもあれば、苦しさもあり、
登山もしたし、沢登りもした。
シカもカモシカもクマもいて、
初めての2泊。
痛みを凌げた安堵感もあれば、
撮影体制を整えて、挑めたことへの嬉しさ。
過去1つ1つの選択肢が少しでも違えば、
全く同じ結果にはならなかった道中。
晴れ続けた空。
目を閉じれば目の前には、
あの滝の情景が浮かんでくる。
リンチョウ への挑戦を終えてもなお、
滝から紡がれる物語を日々、
楽しんでいければと思っています。