南ア 大棚沢 大塚の滝
大塚の滝【山梨県 北杜市 武川町 青木】
SUMMARY
見たこともない二条の爽快な大塚の滝を堪能する。しかし、その右岸巻きにて、同行者に滑落事故が発生。リーダーとしての自覚、場所の選定、リスクに関しての共有が不足していた。一時は自力下山も危ぶまれる展開に。全てを受け止めて次への糧としたい。
滝の記録
訪問日 2020年8月1日
活動の形態:2級(? 2人) / 車
装備:8mm×30m (2本), ミラーレス一眼(広角), 三脚, 沢タビ(フェルト)
感動度:限りなく (大塚の滝)
①南アへ
唐松谷でご一緒した中村さんと、
2度目ということで少し離れて南アを選定。
途中、首都高を新宿方面に誤って
戻ってしまうハプニングを経るも、
早朝にはインターを降りてコンビニ。
青木鉱泉との分岐を左に進み、
ダートを乗り越えて、薬師岳下山路の前に駐車。
②ゴーロ
ゲートの先で、すぐに入渓する。
もっと林道を使ったほうが短縮できた。
緑の堰堤
ゴーロの中にも、
特徴的な小石を見つけたりして、
ジオの知的好奇心を満たしたりする。
2.5m滝
時に大きな岩も動くので、
浮石には十分な注意が必要。
大きな堰堤をいくつも越える。
3m滝
やがて大塚の滝が見えてくる。
そこからもなかなか近づけないが
着実にゴーロを進む。
7mの滝
③爽快な大塚
横顔がカッコ良い
目にした大塚の滝は、
どこか普段と装いを変えているように思えた。
現場では純粋にその姿を受け止めていたのだが、
帰ってみて、これは二条化していて、
特殊状態だと確認。
午前中は晴れにくいそうなのだが、
晴れ間を見せてくれた!
滝前のガレ感はどうしようもなく、
そこが唯一残念な箇所ではあるが、
パーフェクトな状態で拝むことができて感謝。
中村さんも満足されていたようだ。
滝名に関しては、
「大棚沢の大滝」などと呼んだ方が良い
という意見もあるが、
そんなことを言ったら、
ゴンザや、安や、与左衛門、
徳兵衛、源次郎、源五郎など、
何年前以上、○○時代は許すなど、
もっと細かい議論が必要だろう。
④右岸巻きスタート
さて、沢登りとしてはここからがスタート。
大塚の滝の左岸中壁には明瞭なバンドがあり、
そこも気になって滝に接近してみたが、
異常な量の水飛沫に、一瞬で心身が冷却される。
したがって、先人の記録と同様と思われる、
右岸ガレルンゼからの巻きを試みた。
しばらく登ると赤茶けた階段状の滝があるが、
これが触れると崩れ、乗っても崩れる壁で、
登攀不能。
右岸の樹林から巻く。
そうすると、ルートは3つに別れ、
滝に近づくルートと、谷ルート、
そして最も右岸の樹林帯(滝から遠ざかる)
この3つが存在した。
⑤小さく巻けない
小さい巻きを狙ったルートは途中歩きやすいが、
滝の中腹にぶつかってしまい、
そこからの登攀もしんどそう。
ルンゼの中を10~15m上がることにする。
そうしたら、またも取り付くと、
全てが壊れる崖(枯れ滝的形状)が現れる。
ここに少しとりついた
中村さんのスタンスが大崩れ。
この場所からの小さい巻きへとトラバースに変更。
しかし、ここからのトラバースも、
行けるかどうかは行ってみないとわからない
絶壁沿いの木のぼりコースとなり、無理せず引き返す。
中村さんの膝を借りて、
さっきの中央ルンゼ崖滝の
上段の世界を見てみたが奥も極悪。
滝からは遠ざかってしまう、
右岸巻きの可能性を提案する。
そうしたら、
チェーンスパイクを装備した中村さんが、
ちょっと試してみたい、
登れたら上からロープをたらすと仰る。
中央ルンゼ崖滝の偵察をしてもらうことにした。
⑥南アの壁
中村さんは慎重に左側に取りつき、
崖滝の下段部分を越えて中間の場に到達。
僕の認識では、ここでロープを垂らさないと、
いざ上まで登れたところで、
ロープを投げても下に届かなくて
全く意味がないと思ったが、
中村さんはそのまま上を目指していく。
⑦散弾銃
ここは認識のズレで、
ロープを下ろすように言いたいところだったが、
この辺りから、落石が散弾銃のように降り注ぐ。
一個小さなおむすび大のものが
スネに当たっただけで、
怪我をするかと思うほど痛みを感じる。
命の危険を感じて、よけるのに必死。
これほど後続を危険な落石にさらす崖には、
絶対にとりついてはいけないと思うも、
一旦取り付いてしまえば、
登ってしまった本人も容易には引き返せない。
7~8分は立っただろうか、
ようやく散弾銃がやんで、
この隙に比較的安全な対岸に避難。
⑧滑落
登り切れたかなと思った
そのあたりのタイミングで、
突然大きめの落石。
そして目の前には、
人間が滑落してきたのだ。
かなり上部からの滑落。
「やっば、、、」
と口から声がもれ、
近づくまでに思考の整理に10秒はかかってしまった。
⑨セルフレスキュー
即死はしていない。
何やら呻いている。
症状を聞いて、受け答えを確認。
意識はあり、言語障害もない。
頭部は打ってなさそうで、
脳へのダメージはなさそうだ。
強く打ったのは臀部とのことだったが、
左手が中指を中心に真っ赤に染まっている。
そちらをお茶で消毒、
ガーゼ・絆創膏対応をしながら、
大量出血部位の有無を確認。
どうやらなさそう。
中村さんは動くことができない。
これは、骨盤・股関節を折っているなと判断。
自力下山も難しいだろう。
しかし、この大塚の滝の右岸ルンゼにいては、
ヘリによる救助も不可能。
しかもこの場所に居続けたら
次なる落石のダメージがありうる。
かなり痛そうだったが、
ロープで木と繋ぎながら、
移動してもらった。
⑩自力で
大休止を挟みながら、
懸垂下降や、ロープも交えながら、
数十分かけて大塚の滝の下まで降りる。
さらにもう少し降ったところで休憩。
ここで痛み止めを飲んでもらうが、
どうやらなんとか歩いて降りられそう。
安堵し、胸をなで下ろしました。
兎にも角にも時間がまだ
早かったのがよかった。
ヤハズハハコ
飯を食べすぎて眠くなったので、
途中堰堤横で仮眠をしたり、
小石の採集もちょいちょいしながら、
ついに沢を脱出!!!
とぼとぼと林道を歩きながら、
回復しつつあった中村さんと
本日の反省点を振り返る。
なんとか自力下山できました。
⑪山梨県、救急医療体制の現状
中村さんは臀部痛で、
長時間の運転にはとても耐えられない状況。
助手席で臀部を横にしながら、
苦しそうにされている。
この後、山梨県内で病院に寄りたくて、
山梨大病院に電話する。
そうすると今週の救急当番は、
甲府城南病院と、県立中央病院だから、
どちらかを紹介される。
そのため、城南病院に電話をしたら、
命に関わる方の診療で忙しかったのか、
それとも救急当番の役割を放棄したのか、
県立中央病院に行くように指示をいただく。
県立中央病院には何度も何度も
電話をしたが一向につながることは、
ありませんでした。
この日の病院訪問は諦めていただき、
調布駅まで運転を代替して解散に。
中村さんには骨折の症状はなく、
翌日の沢登りは辞退したものの、
数日以内に仕事に復帰されました。
しかし、右の頬の神経がやられ、
目立った傷にはなっていないも、
該当部への痛みを生涯にかけて感じづらい
そんな状況になってしまったそうです。
(本人は全然大丈夫と言っています。)
⑫振り返り
今回の事故には様々な穴があって、
複合的な要因ではあるが、
いくつか振り返りたい。
A 場所の選定
パーティとして2度目の活動にしては、
先人の記録も少ないところ。
尾白川や黒川など
南アには何度か来ているが、
南アの一側面である
「崩壊」のイメージは薄かった。
お互いの癖の把握や、
連携が十分でないうちは、
場所の選定をシビアに行う必要がある。
B リーダーとしての自覚と取り付き癖
僕もいろんなところに取り付いてきたが、
取り付き癖は危険。
そして、僕は往々にして、
自分よりも登ってみようとする人と、
同行した経験がほぼない。
(兵庫のTAKUさんくらいか…@四ノ川)
だいたい僕が一番取り付きがちだった。
僕の方が経験値が多く、
危険だと判断した崖ではあったが、
登りたくて登れると思ったのならやってみたら?
と本人の意思を尊重させてしまった。
こういうシーンでは相手が年上でも、
ちゃんとやめさせることが大切なんだろう。
その辺りがリーダーとして自覚が欠けていた。
C 南アの地形と崖そのもの
そもそも地域の特性として、
あそこまでひどい崖があるとは想定していなかった。
そして実際に目にして、
登らない判断をしたが、
自分が登らないだけではなくて、
「パーティとして絶対に登ってはいけない」
というレベルにまで
昇華させていなければいけなかった。
巻きのルーファイとしては、
引き返した木のぼりルート、
もしくは一番遠い樹林帯ルートが正解でしょう。
ただ、崩壊が酷すぎて、
昨今の異常豪雨を鑑みると、
かつてのルートが今残っている保証はまるでないです。
D ビレイの有無
中間支点の取れない崖ではあったが、
滑落して思うに、滑落地点よりさらに
下まで落ちていたら命はなかった。
そういう意味ではビレイ必須とも言えたが、
しかし、落石散弾銃が降り注ぐ中では、
それも不可能。
いずれにしても取り付きはアウトだった。
さらには上部から
ロープをたらせたところで、
そのロープにテンションをかけるたびに、
膨大な落石リスクが発生する。
それらの点をパーティとして
見極められていなかった。
【中村さんサイド】
中村さんサイドとしても
すごく反省をされていた。
いずれにしても、パーティのそれぞれが
自分ごととして最大限に反省しなければ、
同じようなミスが起こってしまうだろう。
【追記】
今回の事案に関して、
パンダさんからご指摘をいただきました。
そもそも「登れたらロープを下ろす」という
トップを確保しないシステム自体がありえない
ということです。
頭では分かっていても、
現場ではやりがちなことが、
こういうことかと腑に落ちた瞬間です。
⑬ジオ
今回のジオの知見です。
砂岩系と花崗岩、石英脈、
そして一部チャートがありました。
詳しくないので、「間違ってるよ!」
と気づいた詳しい方、是非教えてください。
(磁石とお酢は使って簡易測定はしています。)
ちょこちょこジオを通じて滝を深めていきます。
⑭まとめ
POINT
① 大塚の滝(60m大滝)は水量が多いと2条で見事, 晴れることもある
② 場所の選定は重要
③ リーダーは自覚を持って、危ない行動は止めよう
④ 崩れる崖には絶対に取り付かない
⑤ 危機には冷静に対応する
⑥ セルフレスキューの習得が必要。
距離:7.6km / 累計標高差:1344m